情報漏えいの対策というと、不正アクセスやランサムウェアが先に話題になりがちです。実際に大きな被害につながることもあります。一方で、法律にもとづいて実際に国へ報告された事案の内訳を見ると、件数の上位に並ぶのは別の原因です。
個人情報保護委員会が2026年7月に公表した「令和7年度 個人情報保護委員会年次報告」には、令和7年4月1日から令和8年3月31日までに処理された漏えい等報告の集計が載っています。自社の対策の優先順位を考えるうえで、参考になる材料です。
本記事では、法令上の区分にならって「漏えい等」と書きます。年次報告の注記のとおり、これは漏えいだけでなく、滅失・毀損と、それらのおそれがある場合を含みます。以下で扱う件数はすべて、この「漏えい等」を対象とした集計です。
この記事でわかること
- 国に報告された個人データの漏えい等が、どんな形態・原因で起きているか(事案件数ベース)
- この報告統計を読むときに注意すべき母集団と業種構成
- この数字を、自社にどこまで当てはめて考えてよいか
何が公表されたのか
年次報告は、個人情報保護法第168条にもとづき、委員会が所掌事務の処理状況を毎年国会に報告するものです。令和7年度分は2026年7月に公表されました。
民間の個人情報取扱事業者等からの漏えい等報告の処理件数は17,139件(前年度19,056件)です。このうち委員会が直接受け付けたものが13,345件、委任先省庁を経由したものが3,794件でした。
以下で紹介する形態・原因の内訳は、委員会に直接報告された13,345件を母数とする事案件数の集計です。漏えい等した情報の量や人数の割合ではありません。委任先省庁を経由した3,794件は、この2つの表には含まれていません。
なお、年次報告は表によって母数が変わります。後述する報告義務該当事由と漏えい等した人数は17,139件が母数で、形態・種類・原因は13,345件が母数です。割合を並べて比べるときは、この違いに注意してください。
漏えい等した情報の形態は「紙媒体のみ」が76.9%
漏えい等した情報の形態別に事案を分けると、次のとおりです。
- 紙媒体のみ:10,263件(76.9%)
- 電子媒体のみ:1,995件(15.0%)
- 電子・紙媒体:70件(0.5%)
- その他:1,017件(7.6%)
事案の件数としては、紙が電子の5倍を超えています。
原因の上位は誤交付と誤送付
原因の集計は、形態とは別の切り口です。まず年次報告の「漏えい等元」という区分で分けると、報告者とされたものが11,040件(82.7%)、委託先が1,292件(9.7%)、不明が1,013件(7.6%)です。
このうち、漏えい等元が報告者とされた事案の原因は次のようになっています(割合はいずれも13,345件に対するもの)。
- 誤交付:6,072件(45.5%)
- 誤送付:2,889件(21.6%)
- その他:691件(5.2%)
- 紛失:654件(4.9%)
- 不正アクセス:533件(4.0%)
- 誤廃棄:78件(0.6%)
- 内部不正:75件(0.5%)
- 盗難:48件(0.4%)
年次報告に用語の定義は置かれていません。本記事では便宜上、誤交付を相手への交付間違い、誤送付を送付先の間違いとして扱います。これは年次報告に置かれた正式な用語定義ではありません。年次報告の本文は、発生原因として「病院や薬局における要配慮個人情報を含む書類等の誤交付、クレジットカード等の誤送付のほか、不正アクセス等によるものが多かった」と述べています。
漏えい等元が報告者とされた事案に限ると、誤交付と誤送付の合計は不正アクセスの約16.8倍です。
なお、漏えい等元が委託先の分では傾向がやや変わり、誤送付506件(3.8%)に対して不正アクセスが328件(2.5%)と接近します。漏えい等元が不明な分にいたっては、不正アクセス395件(3.0%)が最多です。
ここで注意したいのは、形態別の集計と原因別の集計は別々の表だということです。「紙媒体のみ」の10,263件のうち何件が誤交付・誤送付だったかというクロス集計は、年次報告には載っていません。紙が多いことと、誤交付・誤送付が多いことは、それぞれ別に示されている事実です。
この数字を、そのまま自社に当てはめてよいのか
ここは慎重に読む必要があります。
報告義務がかかる事由として最も多いのは「要配慮個人情報を含む」で、17,139件のうち61.9%を占めます(1件で複数の事由に該当する場合は重複して計上されます)。年次報告の本文も、発生原因として病院や薬局における書類等の誤交付、クレジットカード等の誤送付を挙げています。業種別の件数は公表されていないため、これらが76.9%という比率にどれだけ寄与したかは表からは分かりませんが、業種構成が比率に影響している可能性はあります。自社の業種にそのまま当てはまる数字ではありません。
規模の面でも、読み方に注意が要ります。1件あたりで漏えい等した人数は1,000人以下が93.6%(17,139件が母数)、漏えい等した情報の種類は顧客情報が83.9%(13,345件が母数)を占めています。ただしこれは、法定の報告対象となった事案の分布です。「1,000人以下」には1,000人規模までが含まれます。
委員会自身は、中小規模の事業者を意識した動きを取っています。令和7年度に実施した「中小規模事業者における個人情報等の安全管理措置に関する実態調査」で、多くの回答者が安全管理措置の取組が十分でない状況にあることが確認されたとして、相談先として回答の多かった税理士・社会保険労務士に向け、令和8年3月31日に日本税理士会連合会・全国社会保険労務士会連合会を通じた周知依頼を行っています。
実務の観点:「渡した後」に手が打てるか
先に範囲を限定しておきます。「紙媒体のみ」には、受け渡し時だけでなく、保管・廃棄・持ち運びなどで起きた事案も含まれ得ます。年次報告から、紙による受け渡しが何件を占めるかは分かりません。以下では紙媒体対策全体のうち、社外への受け渡しに範囲を絞ります。
ここからは年次報告から直接導ける結論ではなく、受け渡し方法を検討するときの実務上の観点です。年次報告は報告された事案の内訳を示すもので、対策の効果や手段ごとの事故の減り方を測ったものではありません。
紙で渡した場合、宛先を間違えたと気づいても、届いた後の閲覧を技術的に止めることはできません。配達前であれば郵便の取戻し請求などの手段が残る場合はありますが、相手の手元に届いた後は、回収を依頼するほかありません。
一方、電子なら必ず手が打てるわけでもありません。メール添付やFAXも、相手に届いた後は、受信済みの内容へのアクセスを送信側から止められない点で紙と共通します。渡した後に止められるのは、有効期限や宛先ごとの失効を備えた共有リンク方式のように、受け渡しの経路を運営側で制御できる仕組みに限られます。その場合でも、相手がすでにダウンロードした複製まで消せるわけではありません。
「間違えない仕組み」を用意することが前提で、そのうえで「間違えた後に打てる手がどれだけ残るか」は受け渡し方法によって変わります。
自社で確認しておきたいこと
- 社外へ個人情報を渡す場面で、紙の手渡し・郵送・FAX・メール添付が残っているのはどの業務か
- その受け渡しについて、誰に・いつ・何を渡したかを後から確認できる記録が残っているか
- 宛先を間違えたと気づいたとき、渡した後に止める手段があるか
- 委託先へ個人データを渡している場合、委託先側の受け渡し方法まで把握できているか(漏えい等元が委託先とされた事案が9.7%を占めています)
紙をすべてなくす必要はありません。優先順位は件数だけでなく、扱う情報の機微性、対象となる人数、間違えたときの影響の大きさ、代替手段があるかどうかを合わせて考えます。
ForceDriveでできること
法人向けセキュアファイル送受信サービスのForceDriveは、この「渡した後」に手を打つための機能を備えています。共有リンクには有効期限とダウンロード回数の上限を設定でき、既定では期限切れのファイルが自動削除されます。複数の宛先に送ったうち、間違えた1人分の共有リンクだけを無効にすることもできます(すでにダウンロードされた複製までは対象外です)。誰に・いつ・どのファイルを渡したかは受け渡し証明書として発行でき、宛先ごとの開封・ダウンロードの状況や操作の記録は改竄を検知できる監査ログに残ります(証明書は自社が発行する記録であり、第三者機関による監査ではありません)。受信者側はアカウント登録も専用アプリのインストールも不要で、ブラウザだけで受け取れます。受け渡し方法はワンタイムコード・パスワード・公開リンクから選べ、ワンタイムコードの場合は宛先メールに届く6桁のコードを入力してもらう手順が入ります。運用は国内・自社データセンターで行っています。
まとめ
委員会へ直接報告された13,345件を、漏えい等元にかかわらず合算すると、誤交付6,443件・誤送付3,467件で、あわせて9,910件(74.3%)を占めます。形態別では紙媒体のみが76.9%です。年次報告では、病院や薬局における書類等の誤交付やクレジットカード等の誤送付のほか、不正アクセス等によるものが多かったとされていますが、業種別の件数や、形態と原因のクロス集計は公表されていません。そのため、76.9%をそのまま自社の比率として使うことはできません。それでも、自社の「渡し方」を棚卸しする材料にはなります。個人情報を含む書類の受け渡し方法を見直したい場合は、対象となる業務と現在の受け渡し手順を整理したうえでお問い合わせから相談できます。
参考・出典
- 個人情報保護委員会「令和7年度 個人情報保護委員会年次報告」(2026年7月公表):本記事の数値の根拠。処理件数と前年度比はP.39(付表2(1))、監督状況の概要はP.9、中小規模事業者への周知依頼はP.12、形態と原因の内訳は付表2(2)④⑤(P.42〜43)
- 個人情報保護委員会「【概要】令和7年度年次報告の概要について」
- 個人情報保護委員会「年次報告・上半期報告」